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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11204号 判決

原告

山田健司

被告

高島公治

主文

一  被告は、原告に対し、金二五二万八一一二円及びうち金二三二万八一一二円に対する平成八年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金六五三万八七〇〇円及びうち金五八三万八七〇〇円に対する平成八年一〇月二五日(本件事故の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成八年一〇月二四日午後〇時五八分ころ

(二)  場所 大阪府吹田市朝日が丘二六番三号付近道路

(三)  加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七一ぬ九九四)

(四)  被害車両 原告(昭和四七年二月二七日生、当時二四歳)運転の自動二輪車(大阪く九〇九一)

(五)  態様 被告が、加害車両を運転して、本件事故現場の車線の幅員約四・五メートルの北行車線を北進し、道路東側に接する路外マンション出入口に向かい、南から東に向かい右折するに当たり、あらかじめ道路中央によらず、右折進行した際、折から、右後方から同車線を北進してきた被害車両に、衝突したもの

2(傷害、治療経過)

(一)  傷害

左示指・中指基節骨開放性骨折、全身打撲等

(二)  治療経過

(1) 医療法人医誠会医誠会病院

平成八年一〇月二四日から同年一二月三一日まで入院六九日間

平成九年一月二一日から同年九月三〇日まで通院(実通院日数五五日)

(2) 医療法人協和会協和会病院

平成九年一月七日から同年四月一八日まで通院(実通院日数五二日)

(3) 右実通院日数の合計は一〇五日(平成九年一月二一日、同年二月二五日の通院が重複)

(三)  症状固定日 平成九年九月三〇日

3(損害填補)

九九万〇〇五八円(治療費内金)

二  争点

1  事故態様・責任・過失相殺

(一) 原告

被告は、加害車両を運転して路外マンション出入口に向けて右折進行するに当たり、合図をし、あらかじめ道路中央により、徐行または一時停止して後方から進行してくる車両の有無及び安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、あらかじめ道路中央に寄らず、方向指示器による合図も、手信号による合図も行わず、右後方からの車両の有無を確認しないまま、漫然と北行車線左側端から大回りで右折進行した過失により、折から、右後方から同車線を北進してきた被害車両に気づかず、原告をして、急制動及び右急転把の措置を講じさせたが及ばず、同道路南行対向車線上において、被害車両に加害車両前部右側面を衝突させて、転倒させた。

(二) 被告

(1) 本件道路は、制限速度四〇キロメートルに規制されているところ、原告は、時速六〇キロメートルで走行していたもので、また、原告は、加害車両を四〇メートル手前で気がついており、更に二七・三メートル手前で右折する加害車両に気がついているのであって、原告が制限速度を遵守していれば、本件事故は発生しなかった。

(2) 被告は、右折前に一度道路左側に寄っているが、これは被告の過失となるものではない。すなわち、本件道路においては、対向車線からの中央線をはみ出す車両がままあることから危険回避のために行っているものであって、通常の運転方法の範囲内である。

2  後遺障害

(一) 原告

(1) 左中指(手術二回)の屈曲、伸展が十分にできず、その可動域が制限されているばかりでなく、中指にしびれが残っており、かつ、曲がったままでまっすぐに伸ばすことができない。

(2) 左右両手親指が事故発生時に突き指したため、今でもこれに触れただけでも痛みが出る。

(3) 左示指は、今でもその屈曲、伸展が十分にできない。

(4) よって、精密さを要求される仕事のうえで支障を来している。

(二) 被告

自動車保険料率算定会の事前認定では非該当であった。

3  損害

(一) 物損 四九万八九〇〇円

(1) 被害車両(全損) 四〇万円(争いがない。)

(2) 被害車両廃車手続費用 一万五〇〇〇円

(3) 被害車両スクラップ費用 一万八九〇〇円

(4) 携帯電話 二万八〇〇〇円(破損は認める。)

(5) ヘルメット 三万七〇〇〇円(破損は認める。)

(二) 入院付添費(近親者) 五万五〇〇〇円

5500円×10日=5万5000円

本件事故直後、原告の左手は骨折で吊り下げられており、また、右手も打撲で痛みがひどく、手首を曲げられない状態で、手首をまっすぐにして添え木をして包帯を巻かれていたので、両手を自由に使うことができず、そのため、一〇日間付添看護の必要があった。

(三) 入通院(医誠会病院)中の交通費 六万〇八九〇円

(1) 入院中のタクシー代(家族) 一万五二九〇円

(2) 入院中のバス代(家族) 一万〇六四〇円

(3) 通院中の電車代(原告) 一万六五六〇円

(4) 通院中のバス代(原告) 一万八四〇〇円

(四) 入院雑費 八万九七〇〇円

1300円×69日=8万9700円

(五) 治療費 九九万四四一八円(争いがない。)

(六) 文書料(診断書、事故証明) 五八五〇円

(七) 休業損害 二一二万四〇〇〇円

機械部品の精密機械加工を業とする山田工作所(原告の父である山田喜代司経営)勤務(NC〔数値制御工作機械〕等の重要な部門を担当する技術者)

休業期間 合計一七七日

1万2000円×177日=212万4000円

(八) 慰謝料 三〇〇万円

原告は、後遺障害に苦しんでおり、とりわけ、原告は、数値制御工作機械等の重要な部門を受け持っている技術者(製造主任)であるだけに、左右の両手指を自由に使えないということは、このような技術者にとって決定的な痛手というべく、今後長期にわたる心身の苦痛を慰謝する金額としては、三〇〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用 七〇万円

第三判断

一  争点1(事故態様・過失相殺)

争いのない事実1(本件事故)に証拠(甲四ないし一四、一六ないし二二、三〇、乙二ないし四、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況は別紙現場見取図(以下地点を指示する場合は同図面による。)記載のとおりであり、東西方向の片側一車線の歩車道の区別のある道路(以下「本件道路」という。)であり、最高速度を時速四〇キロメートルに規制されている。

2  被告は、加害車両を運転して本件道路を東から西へ向かい走行し、ロイヤルハイツ朝日が丘マンションへ入るため右折すべく歩道寄りの〈2〉地点で右折合図を出し、後方から進行してきた被害車両に気づかず、〈3〉地点(〈2〉地点と〈3〉地点との距離は約七・二メートル)において時速約七ないし八キロメートルで右折を開始したところ、〈4〉地点で被害車両と衝突し、制動措置を講じ、加害車両は〈5〉地点に停止し、被害車両は〈イ〉地点に、原告は〈ウ〉地点に転倒した。

3  原告は、被害車両を運転して時速約六〇キロメートルで本件道路を東から西へ向かい走行していたところ、前方約六一・七メートルに加害車両を認め、同車両が停止しているものと考え、右折合図等も出されていなかったことから、進路を歩道寄りから中央線寄りに変更して加害車両の右横を通過しようとして、約四〇・一メートル進行したところで前方約二七・三メートルに右折を開始した加害車両を認め、危険を感じ、ハンドルを右に切るとともに制動措置を講じたが間に合わず、〈×〉地点で加害車両右側部分に被害車両が衝突した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、原告本人尋問の結果及び甲三一、三七、四一(いずれも原告作成の陳述書)中には、被害車両の速度は時速四〇ないし五〇キロメートルであったもので、原告の警察官に対する供述調書(甲一八、乙三)中の時速約六〇キロメートルであった旨の記載は誤りである旨の供述部分及び記載があるが、原告が警察官に対し被害車両の速度についてことさらに異なった供述をしなければならない事情は見出せないこと、時速四〇キロメートルにおける制動距離は約一七ないし一八メートルであるから、時速四〇キロメートルであれば、原告が危険を感じた時点で制動措置を講じていれば、本件事故は発生していなかったものと考えられること(時速六〇キロメートルにおける制動距離は約三二ないし三八メートル)からすると、前記供述及び記載は採用できない。

前記認定事実によれば、本件事故発生の原因は、被告が右折進行するに当たり、あらかじめ道路中央に寄らず、また、右折合図が遅れたこと及び右折するに当たり後方から進行してくる車両の動静に注意し、その走行を妨げないようにすべき注意義務に違反して、後方の車両の注意をしないまま右折進行した過失にあるというべきであるから、被告は原告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

しかし、一方、原告は、制限速度を約二〇キロメートル超過しており、また、加害車両を認めていたのであるから、同車両の動静を注意しておれば、前記認定以前に右折合図を発見することができたものであるといえ、右の点において過失があるというべきである。

以上の点を総合考慮すると、本件事故についての過失割合は、原告三割、被告七割とするのが相当である。

二  争点2(後遺障害)

証拠(甲一五、乙一二)によれば、原告は本件事故による傷害により、右示指近位指節関節の可動域制限が残ったことが認められるが、その程度は、次のとおりであることが認められる。

他動

自動

右(健側)

左(患側)

右(健側)

左(患側)

屈曲

一一〇度

一〇〇度

一〇〇度

九〇度

伸展

一〇度

マイナス一〇度

〇度

マイナス三〇度

右の後遺障害が残ったことが認められるが、右は後遺障害として独立の損害を算定する程度とはいえないから、これは後記慰謝料の算定の際に考慮することとする。

三  争点3(損害)

1  物損 四三万円

(一) 被害車両(全損) 四〇万円(争いがない。)

(二) 被害車両廃車手続費用

甲三一(原告作成の陳述書)には被害車両廃車手続費用一万五〇〇〇円の記載があるが、これを裏付けるに足りる証拠はない。

(三) 被害車両スクラップ費用

甲三一(原告作成の陳述書)には被害車両スクラップ費用一万八九〇〇円の記載があるが、これを裏付けるに足りる証拠はない。

(四) 携帯電話 一万円

原告所有の携帯電話が本件事故により破損したことは当事者間に争いがなく、その損害額を認めるに足りる的確な証拠はないものの、少なくとも一万円の損害額についてはこれを認めるのが相当である。

(五) ヘルメット 二万円

原告所有のヘルメットが本件事故により破損したことは当事者間に争いがなく、その損害額を認めるに足りる的確な証拠はないものの、少なくとも二万円の損害額についてはこれを認めるのが相当である。

2  入院付添費

原告の傷害の内容からすると、付添看護を要したものとまでは認められない。

3  交通費 三万四九六〇円

原告の通院交通費は、証拠(甲三一)によれば、三万四九六〇円と認められる。

なお、入院中の家族の交通費については、本件事故と相当因果関係が認められない。

4  入院雑費 八万九七〇〇円

1300円×69日=8万9700円

5  治療費 九九万四四一八円(争いがない。)

6  文書料 五八五〇円

証拠(甲三一)により認められる。

7  休業損害 一六八万五三一五円

証拠(甲二三、三二ないし三四、原告本人)によれば、原告(本件事故当時二四歳)は、本件事故当時、機械部品の精密機械加工を業とする山田工作所(原告の父である山田喜代司経営)勤務していたことが認められる。

また、右証拠には、給与として月額三〇万円(就業日数一日当たり一万二〇〇〇円とは認められない。)の給与を得ていた旨の記載があるが、所得証明等公的機関による裏付けはないから、右金額を基礎収入とすることはできないが、平成八年賃金センサス学歴計男子労働者二〇ないし二四歳の平均賃金年三二六万一九〇〇円の収入を得ていたことは認めることができる。

そこで、原告の受傷の部位、程度及び入通院状況からすると、当初の三か月間は一〇〇パーセント、次の四か月間は六〇パーセント、次の四か月間は二〇パーセントの労働能力を制限された状態であったとして休業損害を算定するのが相当であり、すると、次の計算式のとおり一六八万五三一五円となる。

(326万1900円/12か月)×(3か月+0.6×4か月+0.2×4か月)=168万5315円

8  慰謝料 一五〇万円

本件に表われた諸般の事情(前記の後遺障害を含む。)を考慮すると、本件事故についての原告の慰謝料は一五〇万円と認めるのが相当である。

9  以上を合計すると、四七四万〇二四三円となる。

四  過失相殺

前記損害額四七四万〇二四三円から、その三割を過失相殺すると、三三一万八一七〇円となる。

五  損害填補(九九万〇〇五八円)

前記三三一万八一七〇円から既払の九九万〇〇五八円を控除すると、二三二万八一一二円となる。

六  弁護士費用 二〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。

七  よって、原告の請求は、二五二万八一一二円及び弁護士費用を除く二三二万八一一二円に対する本件事故の日の翌日である平成八年一〇月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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